学生をカウンセリングする際に「強みがない。」と相談にくる学生がいらっしゃるかと思います。「私は、学生時代なにもやってきてないし、強みがよくわからないんです…。」このような悩みをもつ学生に対して、どんな関りを心掛けて話を聞くのかと強みを引き出し、自己PRを作成する手順を今回の記事でお伝えしていきます。
《カウンセリング冒頭》
Point1 共感・承認の言葉をかける
強みがないと感じている学生は自己肯定感も下がっており、自信がない状態である場合が多いです。しかし、強みや自己PRにする経験を聞く過程では、過去の経験やどう感じていたかという自己の内面を開示し、話してもらう必要があります。「どうせ自分なんて」「この人(カウンセリング者)からなんて言われるんだろう」という不安を抱えた状態で、相談にきているかもしれません。そんな”不安”な気持ちを”安心”に変えて、「この人なら自分の話を聞いてくれそう」と思ってもらうことが必要です。
そのためにまずは、学生の言葉や気持ちに共感をし、承認の言葉をかけましょう。相談内容を聞いた後、どのような言葉をかけるとよいか、下記が一例です。
例)
「自分で強みを見つけるの難しいですよね」
「なかなか見つからないとやる気もさがってしまいますよね」
「それでもこうして相談にきてくれたんですね」
「絶対誰にでも強みはあるので一緒に探していきましょう」
このような言葉をかけ、表情を観察し、少し安心したような表情や前向きな表情になっていれば大丈夫です。暗い気持ちのまま経験を聞いても、自己探索しにくいので、冒頭5分での”不安”な気持ちを”安心”に変える関わりが重要です。
Point2 どのように強みを探していくか共通認識をもつ
いきなりエピソードを聞いて、こちらが勝手に自己PRを作成しても、本人の自走や自己肯定感UPに繋がりにくいです。また、強みは、その人の行動特性や行動のクセなので、本人にとっては「当たり前」のことであることも多く、自身では気が付きにくい部分でもあります。
強みとはどういったものなのか、どんなポイントでエピソードを掘り下げていくと強みの理解が深まっていくのか、強みの概念と発見の手順の共通認識をもち、経験を棚卸していきます。
声掛け例)
「強みというのは行動特性、行動のクセのことです。だから無意識に行動していることが多いので、見つけづらいです。いまからいろんなエピソードを掘り下げて、○○さんの行動パターンだったり、どんなことを心掛けてたか、工夫していたかということを書き出していきましょう。」
《カウンセリング中盤》
① エピソードを引き出す
「学生時代どんなことをがんばってきましたか?」「熱中してきたことはなんですか?」という問いですぐ考えられる学生は、どんどんエピソードを出していただきます。上記の問いかけをしてもエピソードが出ない場合は、「1週間で特に時間を割いていたことはなんですか?」といった問いや、「学生時代取り組んできたことをすべて羅列してみましょう」といったより具体的な問いをします。
② 行ったことを分解をし、行動や取り組みを思い出しやすくする
多くの場合は、「学業」「アルバイト」「サークル」「ボランティア」などといった内容がエピソードとして挙がってきますので、さらに細かくやってきたことを分解していきます。
例えば、コンビニのアルバイトでも複数分解できます。「会計」「レジ金銭確認」「フライヤー洗浄」「在庫補充」「商品陳列」「トイレ掃除」「ゴミ出し」「配送業者対応」「クレーム対応」「新人教育」など、細かくわけることで、学生自身が取り組んできたことを思い出しやすくなります。
③ 心がけ、工夫したことは何か
次に、「これらの業務で、特に自身が心がけていたことや工夫していたことありますか?」という問いをします。その答えの中で、学生の行動特性や関心を明らかにし、掘り下げていきます。
エピソード・特性の深堀り例1
「揚げ物のフライヤー洗浄って誰もやりたがらないんです。結構重労働ですし、細かく洗わなくちゃいけないので。でも私は、率先して誰もやりたがらないことをやるようにしてました。いざっていうときに使えないと困りますし、周りの役に立ちたいと思っていました」
エピソード・特性の深堀り例2
「商品の補充を、できるだけ効率的に早くこなせる方法を考えていました。事前にどのくらい量があるかを把握し、その時シフトに入っている人と分担しながら、優先順位を決めてやっていました」
エピソード・特性の深堀り例3
「新しく入ってきた人に対して、具体的に指示を伝えるように工夫をしていました。やる順序や目的を伝え、わかりやすい言葉で伝えようとしていました」
④ メリットを考え、工夫点を一言で言い換えていく
次に、心がけていた行動や工夫していた行動で、周りにどんな良い影響があったかと、自身の行動特性(=強み)はズバリなにかを学生自身に考えてもらいます。
もし、なかなか答えがでないときは、言い換えを伝えていきます。「○○さんは、観察力がありますね」「相手の気持ちを想像して行動できますね」「物事を効率よく進めることが得意なんですね」など。そのように伝えると、他者からの評価で強みと自覚する場合もあります。
行動特性は、自然とやっていることも多く、他人から見たら強みと捉えられるのに、本人は自覚していない場合や当たり前のことと思っていることもあります。
⑤ その強みを他の場面でも発揮していたかを問う
最後に、発見した行動特性(強み)が、他の場面でも発揮していたかを問いかけます。
例えば、アルバイトで深堀りをした人であれば、サークルや学業のなかでも発揮されていたかどうかです。
行動特性は、他の場面でも発揮される傾向が強いので、他の経験を話してもらいます。ほかの場面での経験と紐づけることができると、自分の強みであるとより自覚しやすくなりますし、それぞれのエピソードが学生の自己PRのネタにもなるでしょう。
《カウンセリング終盤》
① どのエピソードで自己PRを作るか考える
様々な経験を引き出した中で、どのエピソードで自己PRを作成するか、本人に選んでいただきます。学生自身が今後面接官に伝えるので、本人の納得感が強いものがよいです。
「このなかで、自分らしいなとかこれが伝えたいなと思う経験はどれですか?」といったように問いかけましょう。もし、出てこない場合は、こちらからお薦めします。
筆者は、他人とかかわりがある中で発揮したエピソードがあればそれをお勧めします。他者とのかかわりの中で発揮したエピソードは、面接官に伝えたときに、働いたときの姿を想像しやすかったり納得度が高かったりするためです。
② まとめの言葉を伝え、承認の言葉をかける
最後に、これまでの内容をまとめて伝え返しをし、エピソードができあがった達成感を感じてもらいます。
声掛け例)
では、○○さんの強みは「~」という力で、その具体的事例は「~」の経験ですね。これまでお話ししてみてどう感じましたか?
「強みがない」学生のカウンセリング・自己PRの作成手順は以上です。その後のやり取りがある場合は、添削締め切りを決めて、文章作成を促し、添削をします。
まとめ
自己PR作成の過程が、本人のやる気や自己肯定感をあげるきっかけにもなります。自分の強みを見つけ、他人に承認してもらうことで、自信を付けた学生を何人も見てきました。
就職活動を推進していくうえで、自己肯定感があがっているかどうかは大事な気持ちになります。だから、「強みがない」と感じている学生には、共感や承認を意識した関わりをより一層心掛ける必要があります。エピソードの引き出し方は、経験を細かく分解し、心がけや工夫したことを書き出し、他のエピソードでも共通事項をあげていくことがポイントです。
少しでも就職支援の参考になれば幸いです。