大学職員の方とお話をしていると、しばしば、
「学生と接してはいるものの、正直、今の学生のことがよくわからない」
と伺うことがあります。
そこでこの記事では、21卒の就職支援、
および21卒を対象とした新入社員研修に携わる中で私が感じた、
「22卒の就職支援のポイント」について記します。
■今の学生の特徴は、
①承認欲求の強さ(一方で自信がないこと)と、
②正解を求めること
結論から申しますと、今の学生の特徴は、
①承認欲求が強い(一方で、自信もない)
②正解を求めようとする
の2点であると感じます。
以下、この2点について順に記します。
■今の学生の特徴 ①承認欲求が強い(一方で、自信もない)
承認欲求が強いとは、「周囲から認められたいという欲求が強い」ということです。
例えば、この4月に行われた新入社員研修では、
以下のような受講者が例年よりも多いと感じました。
・仲間内で話している時に、自分を良く見せようとする。いわゆる“マウント”を取り合う
・自虐的なことを言って笑いをとることで認められたい人もいる
・おとなしいタイプで目立つことはできないけど、頑張っている自分を認めてほしい
・結果はあまり良くなくても、プロセスに良い点があれば認めてほしい。自分は頑張った
こうした人は、どの時代にもいるものですが、
今年は例年以上に多いと感じたのは、一体なぜなのでしょう。
私は、こうした変化を説明するキーワードとして、
「東日本大震災」と「新型コロナウイルスによるオンライン化」
の2つが挙げられると考えています。
まず東日本大震災ですが、
彼ら(21卒学生)が東日本大震災を経験したのは、彼らが小学生だった頃です。
この時、日本中が「みんなで助け合おう」という雰囲気になったことから、
彼らの中にも「個よりも協調」「皆で助け合うのが正しい」といった価値観が根付きました。
助け合いに価値を置くことは今も変わっていないと思いますが、
時を経るにつれ、「みんなで助け合う」「周囲に貢献する」という価値観は、
次第に「みんなに良く思われたい」「周囲から評価・称賛されたい」
という欲求を伴うものに変質していった、というのが私の見方です。
では、なぜ、このような変質が起こったのか?
それを説明するのが、次のキーワードの「新型コロナウイルスによるオンライン化」です。
新型コロナウイルスの影響で大学の授業はオンラインとなり、
彼らのアルバイト先として多い飲食業なども営業を縮小。
リアルなコミュニケーションを突然絶たれ、かといってオンラインのやりとりもまだ慣れない中、
周囲とのコミュニケーション量が減るのに伴い、
必然として、周囲から承認や称賛をされる機会も少なくなりました。
(ここでいう承認・称賛とは、
友人との雑談における「へえ~」「そうなんだ」「すごいね」といったものも含みます)
状況をまとめると、「周囲に貢献する」というアクション・思考に対して、
返ってくる承認・称賛の機会が少なくなり、ギブ&テイクの不釣り合いが生じているのです。
加えて、見返りを求めての「周囲への貢献」ではなかったため(見返りを求めない貢献こそが正しいという認識が強いため)、見返りを強く周囲に求めにくく、承認・称賛されたいことを公言しにくいという感情が生まれているのではないでしょうか。このような世の中だと、欲求も解消しきれず溜まって、膨れ上がっていきます。
このように、「東日本大震災」と「新型コロナウイルスによるオンライン化」によって、
今の学生の承認欲求は強いものになった、というのが私の見方です。
同時に私は、承認欲求が高まる傾向の表裏として、
「自信がない」学生が増えていると感じています。
認められた経験が少ないから「承認してほしい」。
一方で、認められた経験が少ないから、「本当のところ、自分に自信がない」。
もちろん、人それぞれであり一概に言えるものではありませんが、
「承認欲求」と「自信のなさ」は、多くの人に併存しているのではないかと感じるのです。
以上が、私が感じる今の学生の特徴なのですが、
では、こうした学生が就職活動を始めると、どういうことが起こるでしょう?
多くみられるのは、自信のなさが、自己PRの作成時に露見される例です。
「他人にアピールできるような実績なんてない」
「頑張ったことも特にない」
いざ、自分が認めてほしい部分について書こうとすると、筆が止まってしまうのです。
こうした学生に対し、支援者側はどのように対応するとよいのでしょうか。
参考までに私のスタンスをご紹介すると、
・どんな人でも、アピールできることは必ずある(と支援者側が信じる)
・それを、本人との対話を通じて一緒に探していく
というものです。
特に学生の場合、先述のように
「認められた経験が少ないから自信がない」だけでなく、
「企業が求める要素がわかっていないから、アピール要素なんてないと思い込んでいる」
ことが少なからずあります。
例えば、
「勉強を頑張ったわけでもないし、サークルにも入ってなかった。
だから自分には企業にアピールできることなんてない」と思い込んでいる学生。
しかし企業が求めるのは、「学業やサークルでの頑張り」だけとは限りません。
例えば趣味の分野でも、本人がのめり込んだ何かがあれば、
その集中力や行動力等は評価要素になりえます。
実際、昨年、
私が支援した学生にも「学生時代に頑張ったことなんてない」と言う人がいました。
しかし趣味の話まで深掘りしていくと、実はゲームがとても好きで、
あるゲームの大会で全国ベスト8まで勝ち進んだと言うのです。
「なぜをそれを頑張れたの?」
「どういうふうに頑張ったの?」
「どうなりたくて頑張ったの?」
と私が聞くと、彼は「大会に出るためにはコレコレが必要で、そのために頑張った」
と明快な回答をしてくれて、「それじゃん!それを企業にもアピールしよう!」となりました。
(結果、その企業からの内定を獲得することができました!)
ゲームでの頑張りがすべての企業に評価されるかはわかりませんが、ライバルもいる中で
全国ベスト8まで勝ち進んだ彼の取り組みを評価してくれる企業は必ずあります。
この点、彼の場合は「ベスト8」という結果があったからこそアピールしやすかった、という面はありますので、
そういった意味では、趣味でも何でも良いので(というと語弊がありますが)、
自分が好きなこと、熱をいれて取り組めそうなことを学生時代の早いうちに見つけて
一生懸命に取り組む、というのは有効かとは思います。
■今の学生の特徴 ②正解を求めようとする
次に「正解を求めようとする」
という点についてですが、実はこれも、承認欲求が根底にあるように思います。
「間違ったことをして、周囲にマイナスに思われたくない」という、
いわば「非承認からの回避欲求」です。
私はこの傾向を、新入社員研修をしていて感じました。
研修中、何か指示を出すと、皆、指示通り素直に行う姿勢なのですが、一方で、
「間違ったことをして恥ずかしい思いをしないように、明確に、具体的に指示してください」
というスタンスでもあるのです。
「恥を避けたい」というのは昔からの日本人の特徴(価値観)かとも思いますが、
その傾向が強まっている印象です。
では、こうした、「正解が欲しい、間違えたくない、周囲にマイナスに思われたくない」
学生が就職活動をすると、どうなるでしょうか?
例えば、企業選びの基準を、自分ではなく親や友人に委ねてしまう、ということが起こりえます。
・親が賛同してくれるなら、自分もOK
・友人が『その会社、知ってる!』『いい会社だよね』といえば就職を決めるが、
友人が『聞いたことない、知らない』と言ったら候補から外す
といった意思決定をするというものです。
しかし言うまでもなく、就職する会社は、周囲の価値観で決めるのではなく、
自分の価値観で決めることが大切です(他人の意見を参考にするのは良いですが)。
ですから私は、このような学生が相談に来た時は、必ず
「あなたは何をしたいの?」と質問するようにしています。
こちらではなく、学生本人を主語にして問い返すのです。
ただ、どうしたらいいのかわからず相談に来ている学生に対して、
「あなたはどうしたいの?」と言っても、学生は「それがわからないから相談に来てるのに」
と思ってしまうかもしれません。
ですから、学生が自分で考えるためのヒントは積極的に示します。
例えば、
「以前もあなたと同じような悩みをもった学生が相談に来たけど、
その学生はこういうふうに自分のやりたいことを考えたよ」
「今、A企業とB企業で迷ってるんだね。その2つの中で、
それぞれどの部分がいいと思っていて、どの部分は不安だと思っているの?」
など…。
私の考えを示すのではなく、学生が自ら思考できる、
自分の答えを見つけ出せるヒントを示します。
これは実際にあった話ですが、
東京の有名私立大学の女子学生で、マスコミの報道志望の学生がいました。
愛知出身の学生で、「地元愛知の新聞記者」か、
あるいは、「東京でアナウンサー」を目指すか、で悩んでいました。
「報道を通して世の中を救いたい、できれば就職も地元でできればいい」
「でもアナウンサーも1つ残っている。東京で、キラキラしたアナウンサー。これも良いかも…。」
私を頼ってくれていたこともあり、彼女は、どちらに進むべきかを私に委ねている、
正解を私に聞きたがっているようにも見えました。
しかし私は、ここで「答え」のようなことを言ってはダメだと思い、
「あなたは何をしたいの?」
「あなたは、仕事を通じてどうなりたいの?」
と聴き続けました。
そして最終的に、彼女自身の口から、進みたい道について話してもらうことができました。
今の学生は、「周囲が気になる」「自信がない」ために、
正解を周囲に求めがちな面があります。
しかし後悔のない良い就職は、あくまで自分の意志に従った選択の先にあるはずです。
「あなたは、どうしたいのですか?」
「あなたは、何がやりたいのですか?」
こうした問いを丁寧にし続けて、
本人の口から何も出てこなかったら、本人の人生を一緒に振り返って考えてみる。
それぞれの出来事の時にどう感じたのか、
本人と一緒に体験するかのようなスタンスで本人と接する。
こうした姿勢が大切なのではないかと、日々の支援を通じて感じます。
おわりに
以上、最近の学生の2つの特徴と、就職支援の際のポイント
について述べさせていただきました。
皆様が学生を支援される際に、少しでも参考になりましたら幸いです。